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第1回 手前勝手な英語力測定法

振り返ってみると、今までにカナダに7年、アメリカに半年、オーストラリアに半年住んだことになる。通算で8年も英語圏に住んでいると英語がペラペラと思うかもしれないが、海外に初めて住んだのが26歳と遅かったことや語学のセンスがからきしないこともあり、私に限っては全くそのようなことはない。「話す・聞く」に関しては相当苦労してきたし、いまでも苦労している。もともと日本語で話すのさえ不得手で、小学校の頃は特に電話で話すのが大の苦手だった。

大学院の博士課程で留学を目指したが、留学のためにはTOEFLを受けなければならない。当時、北米の学部留学には500点以上、大学院留学には550点以上、さらにトップスクールの大学院に入るには最低でも600点が必要と言われていた。とりあえず受験してみると500点を少し超えたレベル。その後何回か受験してみたが、リスニングセクションでの点数が悪くて、どうしても550点に届かない状況だった。仕方なく、TOEFLのための予備校に通うことにした。さすがに高い授業料を払ったかいがあって、550点以上はなんとかクリアしたが、600点は達成できなかった。

それでも北米のいくつかの大学院から入学(入院?)許可をもらい、さらに運よく日本で留学のための奨学金も得て、目出度くカナダの大学院に留学した。ところが、最初は相手の英語がよくわからない、自分の英語がほとんど通じないといった状態で、鬱になりそうだった。後からわかったことだが、とくに英語が聞き取れなかった教授はスコットランド出身だった。アクセントがとても強かったのである。しかし、そのときは米国アクセントと英国アクセントの区別すらできないくらいの英語力だったので、なぜこんなにもこの先生の英語を聞き取れないのだろうと落ち込んだ。

ところで、カナダは英連邦の一員である。したがって、英語の綴りは英国式だが、地理的な関係から発音はほぼ米国式だ。また、興味深いことに、仏語をネイティブとする人や移民を除けば、基本的にカナダ内では地域独特のアクセントがほとんどない(ニューファンドランドではアクセントがあると聞いたことはある)。これは米国と好対照である。

面白いエピソードがある。留学1年目の2学期のことだった。ミクロ経済学を教えている米国人教授がとても早口なので苦労していた。あるとき、講義の後に中国人留学生たちとその教授の英語を聞き取るのが大変だという話をしていると、カナダ人が割り込んできて「実は自分もそうだ」と言う。「なんだ、自分の英語力の問題ではなかったのだ」と安心したのも束の間、考えてみると、彼は仏系カナダ人で英語がネイティブでない。留学生とあまり変わらなかったのだ。ついでにもう一つ。4年目だったと思うが、香港からの中国人クラスメートとある経済問題について議論をしていた(もちろん英語で)。隣に米国人の教授がいたので、我々の議論についてどう思うかと尋ねると、彼曰く「なんだ、君たちは英語で話していたのか!」

留学4年で目出度く博士号を取得し、その後1年間研究員としてその大学に残った。いくつかの講義も担当した。5年目ともなるとある程度は英語を扱えるようになったが、講義でこちらの英語が通じているかどうかはとても不安だった。オフィスアワーに研究室に質問に来る学生に私の英語はどうかと聞くと、多くの学生が”Not too bad”と言ってくれた。ただ、彼らは私がネイティブでないということを知っているので、その分一生懸命聞いていてくれたという面は否定できないだろう。ところで、研究室まで質問に来るような学生は真面目で成績も大概良いのだが、成績が悪い学生の中には、成績の悪さを先生の英語のせいにする者が結構いる。

個人的には、会話能力を測る最もよい方法は、小学校低学年ぐらいの子供と話してその反応を見ることだと思っている。子供は、相手がネイティブでないから一生懸命聞こうというようなことはしない。また、こちらは、難しい単語や複雑な表現を使えない。こちらの言っていることがわからないと、手のひらを上に向けながら両手を広げて首をすくめ、お手上げのポーズとなる。子供とまともに会話できるようになったら結構な実力である。

ヒアリング能力を測る最もよい方法は、テレビのコメディ(いわゆるシットコム)を見て、聴衆が笑う時に自分も一緒に笑えるかどうかをチェックすることだ。一緒の時に笑うというのは、なかなか難しい。ユーモアのセンスも国民によって若干違うので、笑うポイントが異なることもあるが、これで簡単にヒアリング能力をチェックできる。また、シットコムは国民性を理解するのに大変役立つ。ちなみに、私の好きなシットコムは、Cheers、Cosby Show、Everybody Loves Raymondだ。Cheersの舞台とされているボストンのバーを訪れたときには感慨深かった。Cosby Show は、Bill Cosby自身の子育て経験に基づいているらしいが、つくづく彼はコメディの天才だと思う。Everybody Loves Raymondは、夫婦間や嫁姑間の様々な問題を冷静かつ面白可笑しく描いているが、あまりにもリアルな話も結構あって、手放しでは笑えない面もある。Night CourtやFriendsも大変優れたシットコムだ。飛行機に乗ったときに、これらのシットコムがビデオのメニューの中にあると嬉しくなる。コメディと言えば、イギリスのBenny Hill Showも傑作だが、残念なことに台詞がないため、英語の勉強にはならない。

英語ではいろいろ苦労してきたが、最終的に、私が悟った簡便かつ実践的英語力測定法を教えよう。それは、「飲み会に参加する」というものだ。酒を飲んで酔っ払った席でもちゃんと相手が言っていることが理解でき、またちゃんと話せるようになれば、自信を持ってもよい。このようにして、飲み会の機会を無理矢理正当化しているだけと言えなくもないが・・・。いずれにせよ、(飲酒が合法な年齢に達している人は)是非お試しあれ!

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石川 城太 氏
一橋大学 経済学部長・経済学研究科長
一橋大学経済学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、 ウェスタン・オンタリオ大学大学院経済学研究科博士課程修了(Ph.D.)。
ウェスタン・オンタリオ大学経済学部ポスト・ドクトラル・フェロー、一橋大学経済学部専任講師、助教授を経て、現在、教授。この間、コロラド大学ボールダー校経済学部、及びブリティッシュ・コロンビア大学商学部客員研究員、ボッコーニ大学、ハワイ大学、及びニュー・サウス・ウェールズ大学客員教授を歴任。
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